【未来を描く魔法の計算書】変動損益計算書で考える会社の未来

変動損益計算書を使った財務分析

皆さん、こんにちは。

税理士・公認会計士の藤原です。

 

今回は「変動損益計算書」の魅力について書いていこうかと思います。

 

経営者の方とお話すると、「決算分析っていっても、何をどう見たらいいのか分からないし、過去の情報を分析したところであまり将来に役立つ気がしないのですが・・・」とよく耳にします。

 

確かに「当座比率が××で、経常利益率が〇〇で、総資本回転率が△△だから会社の業績は順調だな」と、判断出来る事ってないと思います。

 

会計・税務の専門家である会計士や税理士でも、それらの数値を見て「この会社は優良企業だ」と判断出来ることは無いと思うんです。

 

あくまで、街に出回っている専門書とかネットとかの情報と見比べて、「(この本に書いてある指標と比べると、よし、上回っているな。だから、)この会社は優良企業ですね。」と判断しているだけであって、決算分析で会社の善し悪しなんか判断出来ないと思います。

 

一般的に自己資本比率(純資産/負債及び純資産の合計額)は「50%以上あればかなり良好で、少なくとも30%は確保しておきたい」と考えられている指標です。

 

なので、一般的には自己資本比率が50%以上あれば優良企業に位置付けられるのではないかと思います。

 

ところが、記憶に新しい株式会社レナウン(2020年5月15日民事再生法申請)の直近の決算資料(2019年12月31日)によると自己資本比率が45.5%と、倒産のわずか数カ月前まで50%近くの自己資本比率を誇っていました。

優秀と言われるほどの自己資本比率を誇っていたレナウンがなぜ経営破綻してしまったのか。

 

破綻の要因はいくつかあると思いますが、最大の要因は親会社からの売掛金の回収が難航してキャッシュが枯渇したことだと言われていますが、少なくとも自己資本比率が高ければ「会社は安全」という事ではないという事をご理解いただけたかと思います。

 

では、財務分析は無意味なのかというと、全くそうではなく、決算書の数値(試算表の方が尚良し)に一手間加えた上で分析を行うと目から鱗状態で財務分析が可能になります。

 

今回はその目から鱗状態を作り出す「変動損益計算書」の魅力について話をしようと思います。

 

変動損益計算書とは

変動損益計算書は、通常の決算申告で提出する損益計算書に集計される売上原価、販管費科目をそれぞれの性質に応じて変動費と固定費に分類したうえで、再集計し損益を把握する計算書を言います。

 

通常の損益計算書(申告書類提出用に作成される書類)は各科目をザックリ、売上高・売上原価・販管費に分けて1年間の経営成績を把握します。

 

一方で、変動損益計算書はあくまで内部管理用の資料として作成するもので、売上原価と販管費に関する科目を変動費と固定費に分類して1年間の経営成績を把握するものです。

 

両者とも科目を組替えているだけで使う資料は同じなので、営業利益以下(経常利益・税引前当期純利益)は一致します。

変動損益計算書と通常の損益計算書

変動損益計算書における、変動費は「売上に比例して増減する費用」をいい、卸売業であれば商品の仕入高が変動費になりますし、製造業であれば原材料や外注加工費が変動費に分類されます。

 

これらの費用は、売上高が倍になれば発生するコストも倍になり、売上高に連動して発生コストが増減するので変動費と呼ばれたりしています。

 

一方で、固定費とは「売上に関係なく発生する費用」をいい、売上高がゼロであっても支払が発生するコスト(家賃や人件費等)で変動費以外のコストを固定費と呼びます。

 

このように、通常の損益計算書で発生する「売上原価と販管費」を「変動費と固定費」に分解して、成績を表したものを「変動損益計算書」と呼びます。

 

では、費用を変動費と固定費に分解することによりどのようなメリットがあるのでしょうか。

 

次からは変動費と固定費に分解することのメリットについて確認していきましょう。

変動費と固定費に分解するメリット

最低限稼ぐべき売上高がわかる

通常会社が来期の目標を立てる時、「売上目標XX円」とか「当期の売上高の△△倍」など、売上高をベースに来期の目標を考えがちです。

 

もちろん、売上高というのは会社が継続するために必要なものですし、売上があがらないと会社の存在意義も問われてしまうので、とても大事な指標です。

 

一方で、ではその売上高を目標売上高として設定した根拠は?

と質問すると、多くの経営者から「何となくこれくらいがいいかな」とか「前期の売上はオーバーしたいから」と根拠に基づいた目標売上高を算出出来ている訳ではありません。

 

しかし、この変動損益計算書に基づくと、来期の売上高目標が根拠に基づいて算出することが出来るのです。

 

早速その方法について3STEPで確認していきましょう。

 

STEP1.限界利益率を把握しよう

先ほど、通常の損益計算書において「売上原価と販管費」に該当する部分は変動損益計算書では「変動費と固定費」に分解すると言いました。

 

そして通常の損益計算書において、売上高から売上原価を差し引いたものを売上総利益と呼ぶのに対して、変動損益計算書では、売上高から変動費を差し引いたものを限界利益(貢献利益と言ったりもします)と呼びます。

 

通常、売上高と変動費は、単価×数量で構成されているため、売上高が増えれば変動費は増えるし、売上高が減少すれば変動費は減少します。

 

例えば、あなたがラーメン屋を営んでいると想像してください。

ラーメンの販売単価が1000円だとして、原価(ここでいうと麺とかスープとかにかかる費用)が400円だとします。

 

仮にラーメンが1杯売れたら、限界利益は600円(1,000円―400円)になりますし、10杯売れたとしたら限界利益は6,000円((1,000円―400円)×10杯)になります。

 

このように売上高から変動費を差し引いたものを限界利益と言い、一杯当たりの利益率を限界利益率と言ったりします。

 

今回の事例でいうと限界利益率は60%(限界利益600円÷売上高1,000円)となります。

STEP2.固定費を把握しよう

限界利益率を把握したら次に固定費を把握します。

 

固定費は、先ほど説明した通り「売上に関係なく発生する費用」で、売上高がゼロであっても支払が発生するコスト(家賃や人件費等)となります。

 

話を単純化するために、家賃だけが固定費として毎月発生すると仮定します(人件費などは今回は無視)。

 

家賃はラーメンが売れようが売れまいが毎月家主との契約により一定額が発生しますので、固定費になります。

 

今回の例では月12万円で店舗を借りているものと想定しましょう。

STEP3.損益分岐点売上高を把握しよう

上記の通り、ラーメン1杯の売上単価が1,000円、変動原価が400円、家賃が月12万円と仮定した場合、何杯ラーメンを売ればトントンになるでしょうか。

 

ラーメンを1杯も売らなければ材料費やスープ代も発生しないので家賃の12万円がまるまる赤字になりますし、ラーメンを1杯売るごとに600円の限界利益(1,000円―400円)が稼げるので、極端な話1ヶ月でラーメンが1杯しか売れなかった場合、その月は111,400円の赤字になります(600円-120,000円)。

 

いずれにしても1杯につき600円の限界利益が稼げるので、この600円を積み重ねるとやがて固定費である12万円を回収出来ることになります。

 

今回の例でいうと600円が12万円になるまで積み重ねればいいので、200杯(120,000円÷600円)のラーメンを販売出来れば、固定費を回収する事が出来ます。

 

このように固定費が回収できる売上高を損益分岐点売上高といい、今回の例でいうと200,000円(200杯×1,000円)が損益分岐点売上高となります。

 

なお、損益分岐点売上高は限界利益率と固定費からも算出することも出来ますので覚えておきましょう(むしろこっちの方がシミュレーションでは使いますかね)。

 

固定費÷限界利益率=損益分岐点売上高

120,000円÷60%=200,000円

 

今回の例は極めてシンプルな例ですが、事業を運営していくうえで発生する費用を変動費と固定費に分ける事により最低限稼ぐべき売上高がいくらなのか、ロジカルに把握する事が可能となります。

 

また、事業を運営していくうえで必要となる利益が分かれば、稼ぐべき売上高も逆算する事が可能となります。

 

経営シミュレーションが容易に出来る

では、今回の事例を踏まえて、以下の条件の場合に必要となる翌期の売上高がいくらになるか考えてみましょう(話をシンプルにするため税金は無視します)。

 

【前提】

ラーメン1杯あたりの販売価格:1,000円

ラーメン1杯あたりの販売単価:400円

家賃:2,400,000円(120,000円×12ヶ月)

銀行への借入金の返済:600,000円

社内に残したいお金:180,000円

 

 

先ほど、損益分岐点売上高を算出する際、以下の式で損益分岐点売上高を算出しました。

 

固定費÷限界利益率=損益分岐点売上高

 

このロジックを応用すれば、翌期に稼ぐべき売上高が簡単に算出する事が出来ます。

 

今回の例でいうと、年間の家賃が2,400,000円、銀行への借入金の返済600,000円、会社に残したいお金が180,000円なので、この3つの合計額である3,180,000円を回収出来る程の売上高が必要となります。

 

(固定費+返済金+残したいお金)÷限界利益率=稼ぐべき売上高

3,180,000円÷60%=5,300,000円

 

いかがでしょうか。

 

今回の例でいうと5,300,000円稼げば、家賃を払って、銀行への借入金を返済しても180,000円会社に残る計算になります。

 

では、販売すべきラーメンは何杯になるでしょうか。

 

簡単ですね。

1年間で5,300杯(5,300,000円÷1000円)販売出来れば目標を達成する事が出来ます。

 

念のため1年間で5,300杯のラーメンを販売した場合の損益を見ておきましょう。

変動PL金額チェック

営業利益780,000円のうち、600,000円を銀行への借入金返済に充てると、ちょうど180,000円が残る事が分かっていただけたかと思います。

 

このように売上原価と販管費を変動費と固定費に分解することによりより具体性を持って売上目標を立てることが可能となります。

来期は営業利益を2倍稼ぎたい!売上も2倍必要なの!?

では、話は少し変わりますが、来期は今期の利益の2倍稼ぎたい!と思った時、売上高も今期の2倍必要になるでしょうか。

 

結論から言うと、売上高は2倍も必要ではありません

 

なぜかと言うと、固定費は売上が増えても変わらないからです。

 

今回の例でいうと家賃が固定費として月々12万円発生していますが、この家賃はラーメンの販売数量が増えても変わりませんよね?

 

「来期は今期の倍稼ぎたい!」と思ったら、単純に売上を倍稼げばいいのではなく、自社で発生するコストを変動費と固定費に分解し、コスト構造を把握した上で、目標売上高を立てるのが正しいアプローチとなります。

 

ちなみに今回の例で売上高を倍増させた場合の収益は以下の通りです。シミュレーション結果

では利益を今期の2倍稼ぎたい場合の売上高はいくらになるか。

 

先ほど同様に以下の式を応用することで目標売上高を算出する事が出来ます。

 

固定費÷限界利益率=損益分岐点売上高

(固定費+(今期の利益×2))÷限界利益率=来期の目標売上高

(2,400,000円+(780,000円×2))÷60%=6,600,000円

 

このロジックを応用すれば、翌期に稼ぐべき売上高を論理的に導くことが可能となります。

 

もちろん、現実の実務の世界はここまでシンプルな構造ではありませんが、闇雲に目標売上高を掲げた場合と比較すると、来期にやるべきことが何となく腑に落ちるのではないかと思います。

まとめ

今回の勉強はいかがでしたか?

 

今回は変動損益計算書の魅力について取り上げましたが、損益計算書に一手間加えることで「過去の分析」をするだけではなく、「過去のデータを利用して未来を描く」事が出来るのが何となく理解いただけたのではないかと思います。

 

損益計算書は科目が集約されている事が多いので、試算表レベルで科目を固定費と変動費に分類したほうがより正確に分析する事が出来ると思います。

 

変動費とも固定費とも取れない微妙な費用も存在しますが、あまり神経質になると先に進めなくなるので、売上の増減に応じて増減するものを変動費、それ以外を固定費として分類することにより、少なくとも現状の何倍も意味のある分析が出来るようになると思います。

 

また、人を採用するか悩んだ時や、新たに店舗を増やす場合にも「いったいいくら稼げば元をとれるのか」といった事が、変動損益計算書を利用する事でより具体的にシミュレーションする事が出来るようになります。

 

とはいえ、ご自身で分析する余裕がない方や分析方法に不安を感じていらっしゃる方に対して、当事務所では無料で財務診断サービスを提供しておりますので、お気軽にご相談いただけたらと思います。

 

それでは本日もご覧いただきありがとうございます!