役員借入金・役員貸付金が増えていない?ひとり会社の残高整理ガイド
⚠️ ひとり会社を経営している社長へ
「決算書の役員借入金・役員貸付金、毎年少しずつ増えている気がする」
──その増えた理由、説明できますか?
ひとり会社では、社長が会社の経費を立て替えたり、会社の口座から個人的な支払いをしたりと、会社と個人のお金が自然に混ざりやすいのが実情です。その結果として積み上がるのが「役員借入金」と「役員貸付金」です。
ただし、残高はあくまで「結果」です。本当に確認すべきなのは、どんな取引が積み重なって残高が増えたのかという原因のほうです。
この記事では、残高が増える取引の流れを洗い出したうえで、整理の方法と月次で残高を管理するルールを解説します。

📌 この記事の目次
1. 役員借入金・役員貸付金とは?お金の「向き」で整理する
どちらも、会社と社長個人の間の「お金の貸し借り」を記録する勘定科目です。違いはお金がどちら向きに動いたかだけです。
役員借入金とは:
社長が会社にお金を貸している状態(会社から見ると負債)。社長の個人カードで会社の経費を払った、社長の個人預金から会社へ入金した、といった場合に発生します。役員貸付金とは:
会社が社長にお金を貸している状態(会社から見ると資産)。会社の口座から社長の生活費や個人的な支払いをした場合などに発生します。
大切なのは定義を覚えることではなく、「なぜこの残高になったのか」を取引の単位で説明できることです。
2. 残高が増える原因は「取引フロー」にある:よくある6つのパターン
残高が増えている会社では、たいてい次のどれかの取引が繰り返されています。
| 取引の流れ | 仕訳のイメージ | 増える科目 |
|---|---|---|
| ① 社長の個人カード・現金で会社の経費を払い、精算していない | 経費 / 役員借入金 | 役員借入金 |
| ② 資金が足りず、社長の個人預金から会社口座へ入金した | 普通預金 / 役員借入金 | 役員借入金 |
| ③ 会社口座から自宅家賃・生活費・私的なカード代を支払った | 役員貸付金 / 普通預金 | 役員貸付金 |
| ④ 社長個人の住民税・所得税・生命保険料を会社口座から納付した | 役員貸付金 / 普通預金 | 役員貸付金 |
| ⑤ 会社口座から現金を引き出したが、領収書がなく使い道を説明できない | 仮払金 → 決算で役員貸付金へ振替 | 役員貸付金 |
| ⑥ 決算時に原因の分からない差額を「とりあえず」で調整した | 差額 → 役員借入金 or 役員貸付金 | どちらも |
特に注意したいのが⑥です。原因不明の差額を寄せ続けると、この2つの科目が「何でも入る箱」になり、後から誰も中身を説明できなくなります。
3. 【モデル事例】法人成り後も「個人事業の感覚」が抜けなかったケース
【事例概要】
個人事業から法人成りして3期目のひとり社長。個人事業のころと同じ感覚で、会社口座から自宅家賃や住民税を払う一方、出張費や書籍代は個人カードで払っていました。
【結果】
3期目の決算書では役員貸付金が約400万円、役員借入金が約250万円と両方が膨らみ、金融機関との融資面談で内容の説明を求められました。相殺すれば実態は約150万円の貸付金ですが、両建てのままでは誰にも実態が見えません。
※ご相談の多いパターンをもとにしたモデルケースです。
背景にあるのは、個人事業の「事業主貸・事業主借」の感覚です。個人事業ではこれらの残高は翌年の期首に元入金へ振り替えられ、毎年リセットされます。しかし法人の役員貸付金・役員借入金はリセットされず、精算しない限り翌期以降へそのまま積み上がっていきます。
4. 放置するとどうなる?役員借入金・役員貸付金のリスク
① 役員貸付金:利息・給与認定・融資審査に影響
- 会社が社長に貸したお金は、原則として適正な利息を受け取る必要があります。無利息・低利息の場合、その差額は社長への給与として課税されるのが原則です。
- 返済の実態がないと、貸付金ではなく役員賞与と判断され、会社の損金にならないうえ源泉所得税の対象となるおそれがあります。
- 金融機関からは回収の見込みが低い資産とみられ、評価のうえで差し引かれることがあります。
② 役員借入金:社長の相続財産になる
- 社長から見ると、会社への貸付金は「債権」です。万一のときは相続財産として相続税の対象になり、会社が赤字でも原則として額面で評価されます。
- 中身を説明できない残高は、税務調査や融資審査で確認を求められる原因になります。
貸付金の利息を判定する利率は、会社に借入金がない場合、令和8年中の貸付分で年1.3%、令和4〜7年中の貸付分で年0.9%とされています(執筆時点)。詳しくは国税庁「金銭を貸し付けたとき」で確認できます。
5. 残高を減らすための主な整理方法
すでに積み上がった残高は、次のような方法で整理していきます。
| 科目 | 主な整理方法 | 注意点 |
|---|---|---|
| 役員貸付金 | 役員報酬から計画的に返済 | 報酬の改定は原則として事業年度開始から3か月以内。返済分を見込んだ報酬設計が必要です。 |
| 役員借入金と相殺 | 同じ社長との貸し借りなら相殺できます。相殺の日付・金額を記した覚書を残しましょう。 | |
| 社長個人の資産を会社が買い取る | 時価での取引が前提。高すぎる価格は役員給与とみなされるおそれがあります。 | |
| 役員借入金 | 会社の資金に余裕がある時期に返済 | 資金繰りに無理のない範囲で行い、振込記録を残します。 |
| 債権放棄 | 会社に債務免除益(利益)が出ます。繰越欠損金の範囲内なら税負担を抑えられる場合も。他に株主がいるとみなし贈与に注意が必要です。 | |
| DES(借入金を資本金に振替) | 資本金が増えて住民税の均等割が上がる場合があります。債務超過の会社では債務消滅益が出ることも。 |
どの方法が向いているかは、残高の大きさ・会社の利益水準・相続の見通しによって変わります。実行前に専門家へご相談ください。
6. 月次で残高を管理する4つのルール
整理と同じくらい大切なのが、新たに増やさない仕組みです。次の4つを月次のルールにしてください。
① 会社の口座・カードから私的な支払いをしない
社長個人の住民税・所得税・生命保険料・自宅家賃は、個人の口座から払うのが原則です。役員貸付金の多くは、この「ついで払い」から生まれます。
② 立替経費は「月末締め・翌月精算」
個人カードで払った経費は、領収書とあわせて精算書にまとめ、翌月に会社から社長個人の口座へ振り込みます。月をまたいで放置しない仕組みにすれば、役員借入金は増えなくなります。
③ 補助科目で「増えた理由」を分ける
役員借入金・役員貸付金に「立替経費」「資金の貸し借り」「私的支出」などの補助科目を設けると、試算表を見ただけで増加の原因が分かります。
④ 残高の推移表を毎月つける
「月初残高+当月増加-当月減少=月末残高」を毎月記録し、増減の内容をひと言メモしておきます。
| 月 | 月初残高 | 当月増加(内容) | 当月減少(内容) | 月末残高 |
|---|---|---|---|---|
| 4月 | 0円 | 120,000円(住民税・家賃) | 0円 | 120,000円 |
| 5月 | 120,000円 | 30,000円(私的なカード利用) | 100,000円(社長口座から返金) | 50,000円 |
| 6月 | 50,000円 | 0円 | 50,000円(社長口座から返金) | 0円 |
▲ 役員貸付金の推移表のイメージ
当事務所が月次の試算表を拝見するときも、残高そのものより「前月から何が、いくら増えたか」を先に確認します。増え方さえ毎月追えていれば、決算直前に慌てて整理する必要はなくなります。
7. 役員借入金・役員貸付金に関するよくある質問(FAQ)
Q. 社長が会社にお金を貸すときも、契約書は必要ですか?
金額・返済期日・利率を記した金銭消費貸借契約書があれば、出資ではなく貸付であることが明確になり、相続や融資審査の場面でも説明しやすくなります。
Q. 役員貸付金がごく少額なら、利息を取らなくてもよいですか?
無利息で年1.3%の利率が適用される場合、残高がおおむね38万円程度までが目安です。ただし、これは給与課税の取り扱いの話であり、残高を放置してよいという意味ではありません。
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