まだ自分でやるべき人、もう依頼すべき人。個人事業主が税理士に頼むタイミングの見極め方
⚠️ 「そろそろ税理士に頼むべきか」と迷っている個人事業主のあなたへ
「もう少し売上が増えてから」「まだ自分でなんとかなる」
──その判断、数字で確かめたことはありますか?
税理士に依頼するタイミングは、「なんとなくの規模感」で決めるものではありません。売上・利益・作業時間という3つの数字を見れば、自分が「まだ自分でやるべき人」なのか「もう依頼すべき人」なのかは、かなりはっきり判定できます。
この記事では、依頼すべきラインを具体的な金額と時間で示したうえで、逆にまだ依頼しなくてよい人の条件、そして依頼するなら年内のどのタイミングで声をかけるべきかまで解説します。
📌 この記事の目次
1. 依頼のタイミングは「売上・利益・作業時間」で決まる
「税理士はいつから頼むべきか」という質問に対して、私たちが実務でお伝えしている判断軸は次の3つです。
依頼タイミングを判定する3つの数字:
① 売上…消費税の申告義務が発生するか
② 利益…税理士報酬を上回る節税効果が出るか
③ 作業時間…申告作業が自分の時間単価に見合っているか
このうち1つでも基準を超えたら相談を検討、2つ以上超えていれば依頼したほうが金額的にも得になる——これがおおまかな目安です。逆に言えば、3つとも下回っているうちは、無理に依頼する必要はありません。順番に基準を見ていきます。
2. 【売上で見る】1,000万円を超えた「その年」が分岐点
消費税は、基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると納税義務が発生します(国税庁「No.6501 納税義務の免除」)。ここで多くの方が誤解されるのが、「実際に消費税を納める年になってから相談すればいい」という点です。
| 時期 | 起きること/やるべきこと |
|---|---|
| 1年目 | 売上が1,000万円を超える → ここで相談するのが正解 |
| 2年目の12月31日まで | 簡易課税を選ぶなら「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出期限 ※適用を受けたい課税期間の初日の前日まで |
| 3年目 | 消費税の課税事業者となる → この時点では有利な選択が終わっている |
つまり、売上が1,000万円を超えた年に動かないと、有利不利を選ぶ権利そのものが消えます。届出は遡って提出できません(制度の詳細は国税庁「No.6505 簡易課税制度」をご覧ください)。またインボイス登録をしている方は、売上規模にかかわらず消費税の申告義務があるため、この基準とは別に検討が必要です。
3. 【利益で見る】税理士報酬の元が取れる損益分岐点
依頼をためらう最大の理由は報酬です。確定申告のスポット依頼で年間15万円前後と仮定して、いくらの利益が出ていれば元が取れるのかを考えてみます。
ポイントは、所得税と住民税を合わせた「限界税率」です。課税所得が330万円を超えると、所得税20%+住民税10%で合計約30%になります(税率区分は国税庁「No.2260 所得税の税率」を参照)。この水準なら、経費計上や控除の適正化で課税所得を50万円圧縮できれば、税負担は約15万円軽くなります。報酬とちょうど釣り合う計算です。
【試算例】青色申告特別控除を取りこぼしているケース
複式簿記とe-Taxの要件を満たせず、青色申告特別控除が10万円にとどまっている方。65万円が使えるようになれば、課税所得は55万円下がります(要件は国税庁「No.2072 青色申告特別控除」に記載されています)。
【効果】
課税所得400万円の方であれば、55万円 × 約30% = 年間約16.5万円の税負担減。この一点だけで報酬とほぼ同額になります。ここに経費の見直しや各種特例が加われば、差額はさらに広がります。
【逆に、まだ依頼しなくてよい水準】
課税所得が200万円程度の場合、限界税率は所得税10%+住民税10%で約20%です。同じ50万円を圧縮しても効果は約10万円にとどまり、報酬のほうが上回ります。この段階では会計ソフトでご自身で申告するほうが合理的です。
※税率・控除額は執筆時点の制度に基づく概算です。実際の効果は事業内容や所得控除の状況によって変わります。
4. 【作業量で見る】自分の時間単価に換算するといくらか
3つ目の軸は、意外と見落とされがちな「時間」です。領収書の整理から記帳、申告書の作成までを慣れない方が行うと、年間20〜40時間かかることも珍しくありません。
ここで一度、ご自身の時間単価を計算してみてください。年間の利益 ÷ 年間の稼働時間です。仮に時間単価が5,000円の方が申告に30時間を使えば、それは15万円分の労働を無償で投じているのと同じです。
特に注意していただきたいのが、その30時間が1月〜3月に集中する点です。繁忙期に営業や制作の手が止まり、機会損失が生じているケースを実務でよく見かけます。目安としては、月の取引件数が50件を超えたあたりから、記帳の負担が急に重くなります。
5. 【チェックリスト】あなたはどちら側か
ここまでの内容を、判定用のリストにまとめました。当てはまるものを数えてみてください。
【依頼を検討すべきサイン】
- 売上が1,000万円に近づいている、または超えた
- インボイス登録をしている
- 課税所得が330万円を超えている
- 申告作業に年20時間以上かけている
- 従業員を雇った、または家族に給与を払っている
- 融資を受けている、または受ける予定がある
- 車や機械など、高額な事業用資産を購入した
2つ当てはまれば相談を検討する時期、3つ以上なら依頼したほうが金額面でも有利になる可能性が高いと考えてください。逆に、売上500万円以下・取引先が数社・経費もシンプルという方は、当面ご自身で申告される形で問題ありません。
そもそも税理士が必要かどうかから整理したい方は、「個人事業主に税理士は必要?自分で確定申告する場合と依頼する場合を比較」もあわせてご覧ください。
また、依頼すると決めたあとスポットと顧問契約のどちらを選ぶかで迷われる方も多くいらっしゃいます。判断材料は「税理士と顧問契約するメリットとは?個人事業主こそ検討したい5つの理由」にまとめています。
6. 依頼するなら「いつ」声をかけるべきか
① 開業したとき
開業届と青色申告承認申請書には提出期限があります。青色申告承認申請書は原則として開業から2か月以内で、逃すとその年は白色申告となり、65万円の控除も使えません。最初のスタートを間違えないための相談は、費用対効果が非常に高い部類です。
② 年内(できれば11月まで)
節税策の多くは、12月31日までに実行しないと使えません。設備投資の時期、小規模企業共済への加入、家族への給与設定などは、いずれも年内に手を打つ前提のものです。
③ 消費税の課税事業者になる前年
2章のとおり、簡易課税を選ぶかどうかは前年の12月31日までに決める必要があります。有利判定にはシミュレーションが要るため、11月頃までにご相談いただくのが理想です。
最も多いのは2月に入ってからのご相談ですが、その時期にできるのは「正しく申告すること」だけで、税額を動かす余地はほとんど残っていません。同じ費用を払うなら、打ち手が残っている時期に声をかけていただくほうが、確実に得をします。
7. 依頼のタイミングに関するよくある質問(FAQ)
Q. 過去に自分で出した申告を、あとから直してもらえますか?
原則として法定申告期限から5年以内が期限です。ただし届出が前提の制度(簡易課税や青色事業専従者給与など)は遡れないため、すべてが取り戻せるわけではありません。
Q. 顧問契約を結ばないと依頼できませんか?
まずは年1回の申告から始めて、事業の成長に合わせて顧問契約へ移行される方も多くいらっしゃいます。
Q. まだ売上が小さいのに相談するのは気が引けます。
当事務所は小規模企業・個人事業主の支援を専門にしています。「今はまだ依頼しなくて大丈夫です」とお伝えすることもありますが、その判断こそが後々の損失を防ぎます。
なお、有利不利の判定は事業内容や家族構成によって結論が変わります。この記事は一般的な目安ですので、具体的なご判断は専門家にご相談ください。
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